2011年8月25日木曜日

小児科医のつぶやき

小児科医も子育てに悩んでいる
埼玉協同病院 小児科医(指導医) 平澤 薫

先日、異物を誤飲した乳児を連れて、母親が慌てて受診してきた。兄が学校で作ったスライムを飲んだというのだが、ホウ酸を材料に使っていたらしい。調べたところ中毒・致死量には至らず、一安心。それから母親への指導を行った。乳幼児は何でも口の中に入れてしまうから、手の届くところに置かないように。
 小児科医は子ども自身を診察すると同時に、親に対して育児指導やアドバイスをすることも大事な仕事だ。離乳食の進みが悪い子には食べさせ方の工夫をアドバイス。昼夜のリズムが身につかない子には早寝早起きを指導する。子どもにどう接するか悩んでいる場合は、子どもへの関わり方をアドバイスしたりもする。以前は教科書的に言われていることをそのまま話し、できないのは親が悪いと思っていた。

しかし、自分に子どもができてから、親への接し方が変わった気がする。


自分には3人の子どもがいる。いかに子育てが大変か、いかに部屋をきれいにしておくことが大変か、怒らないでしつけをするということがいかに大変か。親になって初めて理解した。
 
冒頭のケースの乳児には兄弟が3人いるらしく、母親は「片付けても片付けても子どもたちがすぐ散らかす。乳児が飲み込む可能性があるものは取り除こうと努力しているのですが・・・」とぼやいていた。その場面が手に取るように想像でき、しかる気持ちよりも共感する気持ちが強くなった。それでも子どもの安全を考えて、言うことは言っている。しかし、自分が実践できているかというと、はなはだ疑問だ。
 子どものしつけもそうだ。「感情的にならず、事実を指摘するように」とアドバイスするが、実際に自分の家では怒鳴ってばかり。後になり、「またやってしまった」と反省する毎日だ。小児科医として親のあるべき姿を語り、家に帰ると不完全な父親に戻る。何となく後ろめたさを感じながらも、親の大変さを理解できる大事な経験をしていると思っている。
小児科医になりたてのころ、上司に「子育てしたら小児科医としても一人前」といわれたことがある。そのときはぴんとこなかったが、今になって彼が言おうとしていたことが何となく理解できる気がする。
小児科外来で出会う親たちは、まさに自分の鏡のように感じる。話をしていて、自分の親としての在り方についてはっとさせられることがよくある。受診する患児の親にいろいろアドバイスをしながら、自分の育児を日々振り返っている。「頼りないかな?」と思いつつ、親と同じ目線で話ができる、そんな小児科医であると自分に言い聞かせながら日々診療している。
月刊誌 民医連医療/20119月号より